2020年「得体の知れない“狂気”」との出会い……『Gujoh Bushi』レビュー

音楽

数年に一度、運命が変わりそうな、脳天にブッ刺さるような“出会い”が訪れる。

 

……が、しかし、大抵はそれが“運命の出会い”とは気付かないものである。

 

“出会い”は年明け早々に

ことの始まりは2020年1月、イベント「FM2D」に行ったときのこと。このイベントは前年まで「ファミ詣」という名称で、ライヴとゲーム大会の2本立てだったが、今年からライヴだけになった。ファミ詣は2018年に行ったことがあり、そのときは友達と一緒に来ていて、「他のイベントもハシゴしたい」と途中で抜けてしまったので、今回のFM2Dは、最初から最後まで一人で堪能した。

▲「ファミ詣」時代のサインボード

 

筆者はもともとチップチューンなど、いわゆる“昔のゲームサウンド”のような「ピコピコ系」と呼ばれる音楽が大好きで、そのようなイベントに遊びに行くこともしばしばあり、今回も「SEXY-SYNTHESIZERさんとかTORIENAさんが見たいなぁ…」と、TORIENAのTシャツを着て行ったが、思わぬ“伏兵”はTORIENAの次にいた。

 

その「Omodaka」と名乗るアーティスト、開始前にカミ手とシモ手に液晶モニターが1台ずつステージに配置されて、一体どんなパフォーマンスが始まるかも想像がつかない。そしてOmodakaも、茶髪ボブに真っ白な仮面、巫女装束の出で立ちで、パッと見では男女の区別すらつかない風体である。……と、ステージを訝しげに眺めていると、出囃子(?)とオープニング映像が流れ、Omodakaのパフォーマンスがスタートした。

 

そこから筆者はOmodakaに約40分間心を奪われ続けたのである。

 

“仮面巫女”が織り成す「唯一無二の世界観」

曲が流れ、Omodakaが歌い出すのかと思いきや、両サイド2台のモニターに映った女性が歌い出したのだ。その後もモニターには片方のみ歌う女性が映ったり、そのもう片方はVJの映像とは別の動画が流れたりしている。当のOmodakaはステージ上でなにをしているのかというと、モニターで“歌っている”女性にマイクを向けたり、曲に合わせてカオシレーターを演奏したり、踊ったりしているのである。筆者はまず、「(自分は一切歌わずに)モニターの中の歌い手に“歌わせる”」という発想に膝を打った。通常、実在する歌い手であればステージ上で生の歌を披露するものであり、それをあえてモニターの中だけに登場させて歌わせるなんて発想、普通に生きていれば、そうそう出てこないものである。彼女の“正体”とは? なぜモニターの中なのか? 演出としては素晴らしかったが、そのときは謎ばかりが深まった。

 

Omodakaは声もボイチェンで加工されており、仮面をしているので表情もわからず、率直に言うと無機質で不気味な印象を受ける。しかしながらそんな“仮面巫女”自身も、前述の通りカオシレーターを演奏しながら踊り狂ったり、さらには最前列の客にカオシレーターを触らせたり、ニンテンドーDSを演奏したり、突然客にDSでゲームをやらせたり(これは次の曲へのつなぎの演出だったりするが)、果ては「うまい棒」を配り始めたり、「第1メンバー、ドラムとベースを担当しますラップトップPC……(中略)第3メンバーPSP……」と“メンバー”と称して“楽器”を紹介したり……その奇妙奇天烈なルックスから放たれる、珍妙珍奇なパフォーマンスに、得体の知れない“狂気”を感じ、ただただ圧倒された。物販で、2019年11月(※配信版は2019年10月)にリリースされたニューアルバム『Gujoh Bushi』を購入しようか迷ったが、結局購入しなかった。

 

その翌月、ファミリーコンティニューとYMCKが同日にライヴを演るという日があり、「どちらも好きなのでうまくハシゴできないか……それとも両方諦めるか……」と首がもげそうになるほど悩んでいたが、OmodakaがYMCKのライヴに出演することに気付いて、結局YMCKのチケットだけを取った。そして「YMCK FAMILY CIRCUS “AFTER” SHOW」でも、FM2Dとは違うセトリで、YMCKを「コケシ」にしたり、(同公演に出演していた)パソコン音楽クラブのリミックスを演ったりと、またしても約40分間語彙力が失われるレベルで“感動”させられた。ここでは物販でGujoh Bushiやそれ以外のCDを購入しようか迷った末、Omodakaの「薄い本」(ライヴレポ集)を購入。CDは購入しなかった。

▲YMCK FAMILY CIRCUS “AFTER” SHOW

 

購入見送りの理由

なぜGujoh BushiなどOmodakaのCDを購入しなかったのか。と、その前に、Omodakaの楽曲について。楽曲のジャンルは民謡をテクノ、チップチューンなどのピコピコ系でアレンジした「テクノ民謡」(Gujoh Bushiの帯や某所のインタビューでは「キメラ民謡」とも)で、筆者の好みにはドンズバだった。FM2Dの後に“モニターの中で歌っているおねえさん”についても調べたが、どうやら「金沢明子」という、実在する民謡・演歌の歌い手であることがわかった(有名で人気の歌い手なのだが、筆者は“その界隈”に疎かったので知らなかった……)。金沢氏については、個人的に興味を持って、「金沢明子House Mix」「平成ミックス東京音頭」……等々、後々さらにもっといろいろ調べてみたけども、それはまた別の話。話が逸れてしまったが、金沢氏の艶やかで芯の通った歌声とピコピコの電子音楽が絶妙にハマっているのである。民謡とピコピコというのは意外と相性が良いのか、それとも金沢氏の歌声だからなのか、実際のところよくわからないが、非常にツボリティだったというのは揺るぎない事実である。

 

しかし、そのときは「確かに曲はすごくかっこいいしツボなんだけど、この曲の良さはライヴパフォあってのものだろう、ライヴパフォがあって初めて“かっこいい”が成立するのだろう」「民謡のリミックス自体、民謡クルセイダーズとかもいるから、特別珍しい物でもないしなぁ……。。。」と、ライヴのパフォーマンスではあれだけ大興奮大感激状態だったのにもかかわらず、頭の片隅ではなぜか変に捻くれて冷めていたところがあった。今思えばこの判断は“誤り”であったが、その誤りに気付くまでは数か月かかった。(ちなみに民クルの結成は2012年で、“沢瀉”プロジェクトの開始は2001年、仮面巫女でのライヴパフォーマンスは2009年からやっていたので、なんと民クルよりOmodakaの方が早かった!)

 

時は流れ

今春、筆者の勤める職場でも、在宅勤務が導入された。これまで社内で仕事をしていたときは、CDから取り込みスマホに入れたMP3をBluetoothイヤホンで聴きながら作業していたが、自宅作業ではイヤホンをする必要がないので、作業用BGMも心機一転、Echo Show 5からSpotifyで音楽を流すことに。当初はYMCK、TORIENA、ヒゲドライバーなど、以前から好きだったピコピコ系アーティストの曲を中心に流していたが、ある日、年明けのライヴで“魂が揺さぶられるほど感動した”Omodakaのことを思い出し、Spotifyで検索してみたところ無事発見。「物は試し」と、以前購入しなかったGujoh Bushiを聴いてみた。

 

……どうして“あの時”物理CDを買わなかったんだ! と、ヒネた理由で購入を見送った数か月前の自分を説教したくなるほどの衝撃だった。

 

ライヴで聴いた曲をアルバムで聴いて、「この曲はこういう曲名だったのか!」とか、「ライヴで聴いたのと違う!」とか、“この曲の良さはライヴパフォあってのものだろう”などという思い込みなど忘却の彼方に消え去り、日々ネットで関連情報を調べては興奮して叫び、ヘビロテした。“(Omodakaの曲は)ライヴパフォがあって初めて「かっこいい」が成立するのだろう”なんて、思い違いにもほどがある。かっこいい曲はいつ聴いてもかっこいいものだ。

 

当然ながらGujoh Bushi以外にも興味が湧き、「Bridge Song」などの過去作もひたすら聴き倒した。気付いたらSpotifyの、どのアーティストよりもヘビロテしているであろうOmodaka。今回はそのなかでも、2020年9月現在、筆者自身「2020年で一番聴いているアルバム」と断言できる、Gujoh Bushiをレビューする。

 

 

Gujoh Bushiは「粋な華やかさ」のある一作

Omodakaの魅力に取り憑かれ、数か月、狂ったように楽曲を聴き込んだが、Gujoh Bushiは、Bridge Songや、2011年にリリースされた「さのさ」にない“華”がある。一言で言えば「粋な華やかさ」だ。ジャケットやアルバム表題曲から受けるイメージもあるかもしれないけれど、ダンサブルでアツいパッションを感じる一作。前作のBridge Songは「凛とした、澄んだ美しさ」を持った作品、その前のさのさは「『沢瀉』10年の歩み」といった感じで、どれも毛色の違うアルバムになっている。

 

収録曲15曲中半数以上が民謡のリミックス。ひとくちに“民謡のリミックス”といっても、Tr.1「桑名の殿様」のように、ブラス&ピアノの打ち込みとピコピコの割合が半々くらいの曲もあれば、ラテン系ピコピコでまとめたTr.10「郡上節(かわさき)」、郷愁的にエモい(死語)ピコピコがキュンとクるTr.6「刈干切唄」まで、民謡×ピコピコの“無限の可能性”を感じられる、奇声を上げたくなるような楽しいリミックスを味わえる。特に筆者の個人的なオススメはTr.3「ちゃっきり節」で、収録されている民謡のなかでは一番キャッチーでとっつきやすいメロディで、自宅で仕事をしていても突然歌い出しを口にしたり、曲に合わせてヴォコーダーの「チャツミー、チャツミー♪」と一緒に歌ったり、とにかく“親しみやすさ”のある曲だろう。

 

Omodakaといえばやはり民謡(か競艇)なのだが、チップチューンのコンピレーションアルバム「8BIT MUSIC POWER」「8BIT MUSIC POWER ENCORE」に書き下ろしたインストナンバー、「キラキラ節」(Tr.12)、「なんか」(Tr.7)も収録されているのは嬉しい。なんかはテンポ良くとんとん拍子で進む、なにも考えていなくても頭にスッと入ってくる曲。キラキラ節は曲名に“節”と付いているが全く民謡感はなく、どちらかというとハウス寄りの楽曲で、無数の星屑の中を、自分が流れ星に乗って空を飛んでいるかのような疾走感が気持ち良い、チップチューン×ハウス。個人的にキラキラ節がGujoh Bushiで一番のお気に入りかもしれない。

▲キラキラ節が収録されている8BIT MUSIC POWER(写真上)

 

ほかには、クラシックのリミックス、「G線上のアリア」(Tr.11)も、チマッとして可愛い一曲である。

 

また、寺田創一氏が編曲を担当した金沢氏の曲「十三みれん」をドラムンベース風にアレンジしたヴァージョン(Tr.13)、寺田氏が森高千里氏に提供した“歌詞のない歌”「百見顔」を金沢氏で録り、Omodakaらしいアレンジを施したTr.9など、“セルフリミックス”的楽曲もあり、Omodakaと「“Omodakaではない”寺田創一」との対比も垣間見ることのできるアルバムといえるだろう。

 

なお、今回はリミックスなどのゲストでJaermulk Manhattan(Tr.4)、YMCK(Tr.15)が参加。「Far East Recording」の盟友・横田信一郎氏のトラック「Got To Be Real」も「両津甚句(横田信一郎配合)」(Tr.8)として収録されており、ゲスト参加の面々も“華”を添える。Got To Be Realと両津甚句は、寺田氏の「寺田創一 House Set」ライヴで度々、Omodakaではまず聴けない、寺田氏による貴重(?)な“生歌”が披露されている。

 

ここまで多少脱線しながらも、ざっとGujoh Bushiとはどんなアルバムかを紹介してきたが、名前の出てきていないTr.2「淡海節」、Tr.5「南部牛追い唄」も、思わずニヤリと唸ってしまうピコピコリミックスに仕上がっており、片やTr.14「こきりこ節(静かな調べ)」はピコピコ要素のないアレンジで、このアルバムでは浮いているように感じられるが、もともとの「こきりこ節」(前出さのさのほか、「Cantata no.147」「Yosawya San」にも収録されている)を知っていると、なかなか面白いかもしれない。ちなみに、“仮面巫女”の狂気にも似た「説明がつかない不思議な感覚」を味わえる、こきりこ節のMVはFar East Recording公式YouTubeで閲覧できる。

 

 

 

そんなこんなで“運命の出会い”とは

数年に一度訪れる、脳天にブッ刺さるような“出会い”。1月の時点で確かに脳天に刺さってはいたのだが、やはりそれが“運命を変えるような出会い”だったのだろうということには、気付くまで数か月かかった。

 

実はOmodakaは冒頭の、筆者が友達と一緒に行った「ファミ詣2018」にも出演していたと知り、「なんと勿体無いことをしたんだ……」と2年越しの後悔。しかも、そのときだけでなく、5年前、友達(ファミ詣に行った友達と同一人物)と遊びに行った「CHIP UNION FESTIVAL 2015 -そして新年へ-」にも、Omodakaが出演していたではないか! (ただし、筆者はそのとき別の“ヲタ活”があったので、どちらにしてもOmodakaの出演時間までいることはできなかった)

▲「CUF2015」の様子

 

過去に2度もニアミスがあったが、3度目で漸くそのパフォーマンスを記憶に焼き付けることができたOmodaka。“3度目”というのも、「三顧の礼」や「三度目の正直」などを連想する縁起の良い回数なので、これも“なにかの……”なのだろう、と思いたい。

 

Gujoh Bushi

アーティスト:Omodaka

収録曲:1.桑名の殿様/2.淡海節/3.ちゃっきり節/4.臆病な忍者達(ヤーマルク編集)/5.南部牛追い唄/6.刈干切唄/7.なんか/8.両津甚句(横田信一郎配合)/9.百見顔/10.郡上節(かわさき)/11.G線上のアリア/12.キラキラ節/13.十三みれん/14.こきりこ節(静かな調べ)/15.桑名の殿様(YMCKボンゾドラムスタイル)

Spotifyで「Gujoh Bushi」を聴く!

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浦和武蔵
5月5日生まれB型。(自称)永遠の20歳。埼玉在住。ゲームライターやスマホ系ライターとして、現在フリーで活動中。放送作家、リサーチャー、ゲームプランナー、シナリオライターの経験もあり。ここ数年はチップチューンにハマっているらしい。