中森明菜、新曲はなぜEDMなのか 共通点から探る心情 新曲に懸けた思いとは

音楽評

 昨年NHK紅白歌合戦で約4年ぶりに公の場に姿を見せた中森明菜(49)。「緊張した」と本人が語った久々のテレビ出演はトークこそ声が震えていたものの、歌い始めれば空気感はガラリ。低音に響く妖艶な歌声で新曲「Rojo -Tierra-」を歌い上げ視聴者を魅了した。

 彼女への注目度の高さが裏付けられるように後日発表された中森明菜の出演シーンの視聴率は42.9%だった(ビデオリサーチ調べ)。歌姫は健在であることを証明したのである。

 ところでこの新曲。これまでとは異なる曲調だったことにお気づきであろうか。EDMを使用しているのだ。しかもサウンドプロデュースに浅倉大介が参加している。なぜEDMなのか。中森明菜とEDMの共通項を探りその魅力を解いていきたい。

EDMというアプローチ

 伝説の歌姫と称され今も人気を博している中森明菜。どのような世代であろうと彼女の楽曲を一度は耳にしたことがあるだろう。「DESIRE」や「スローモーション」「少女A」など、挙げればキリが無いほどにヒット曲、名曲を世に送り出してきた。そしてオリジナル曲だけでなく幾多のカバーにも取り組み、楽曲に新たな息吹を吹き込んできた。

 その彼女が2010年からの活動休止期間を経て、新曲「Rojo -Tierra-」を1月21日に発売する。しかも「エレクトロミュージック」であるという内容に驚きは隠せない。楽曲のサウンドプロデュースは浅倉大介、更に、鳥山雄司という日本屈指の音楽家らが手掛ける。

 「EDM×中森明菜」。この衝撃的なアプローチに彼女はいかなる世界を展開するのか、エレクトロサウンド上で中森明菜の妖艶さはいかにして映えるのか。これまでにはなかった試みに期待感が膨らむ。

 中森明菜の魅力は、何と言ってもその歌唱力、表現力、そしてどこか陰のある妖艶な存在感。中森明菜のその魅力が現代のエレクトロシーンの主流であるEDMサウンドに一体どう合わさるのだろうか。この想像にたやすくないアプローチを紐解くべく、中森明菜とEDM、そこにはそれぞれ、人の感情を揺さぶる共通要素が存在するという点がある事に着目したい。

中森明菜×EDMの共通点

 「中森明菜」と「EDM」には共通点が2つある。どちらかと言えば、異色の組み合わせなのではないかとも思われがちだが、根深い部分に意外な共通点が存在する。それはあらゆる音楽にとって非常に重要な要素だ。

 中森明菜の歌には、聴き手である自分と対峙しているかの様な「歌唱の構成力」があり、心に響く説得力がある。これには聴かせどころを明確にする事でより深く感情に訴えられるという事に繋がる。

 そして佳境では決して期待を裏切らない「感情表現の配分」。緩急の配分がベストであるが故のサビの気持ち良さ。これは「ここぞ」という場面で確実にオーディエンスを釘付けにする事が出来る決定打的な役割を担う。これらは中森明菜の持つ、類を見ない歌手としての確かな魅力と技術なのではないだろうか。

 そして前記の2点はエレクトロミュージック、ひいてはEDMの持つ特色にも共通している。1つにまとめると抜群の「ダイナミズム」。この、聴き手のツボを押さえた抑揚がもたらす快感は中森明菜とEDMの共通項だ。

EDMの特長「抑揚」

 「抑揚」の明確な気持ち良さはEDMの特色の一つだ。淡々としたビートが続いたと思ったら、佳境ではバキバキのシンセサイザーが轟く。飛び散る電子音と爆発するビートに、「待ってました」とばかりにテンションが上がる。それまでは、ハウスビートなりブレイクビーツなり、これぞエレクトロミュージック、と言わんばかりのリズム上でうねるベースラインに自然と身体は委ねられる。

 聴かせどころまで充分に焦らしてジワジワと感覚をあたためられる。全てのEDMに当てはまるという訳では無いかもしれないが、そういった傾向が要素として見られる。この点を中森明菜の魅力と融合する要素と捉えると、新曲に対する期待感は更に膨らむ。

 低音域のえも言えぬセクシーさ、と表現すると直球すぎるきらいはあるが、中森明菜の歌唱の「サビまでに向かう低音の歌声」は至高の域ではないだろうか。佳境までじっくり焦らして、サビでは真正面からのロングトーンで弾ける熱唱。どうやって歌ったら喜ばれるのか、全て把握しているかの様に思えてしまう。

 EDMサウンドの明確な緩急と中森明菜の感情の緩急。「心に染みる歌」と「EDM」。異色とも言えるこの2つが融合したのは、双方の核心的な魅力である抜群の「ダイナミズム」が絶妙に合致した結果生まれた、中森明菜の魅力の新境地とも言える展開なのではないだろうか。

噛み締める様に言葉を紡ぐ

 ゆっくり噛み締める様に言葉を紡ぐ中森明菜の新曲「Rojo -Tierra-」。サウンドはスピード感溢れるエレクトロミュージック。イントロではエスニックなビート、撫でる様に語りかけるアコースティックギター。瞬く様なシンセサイザーの和音とシンクロして歌う導入。生命力溢れる情景を浮かばせるフレーズ。妖艶な低音声域を魅せる。歌の間に混ざり合うベースとシンセサイザー、ビートは、互いに過干渉する事なく絶妙に中森明菜と絡み合い、見事に融合している。

 佳境では、テクノミュージックの進化系EDMが持ちうる爆発力と合致する中森明菜の絶対的な武器「ダイナミズム」。これを存分に感じる事ができる。この様な今までに無かった新たな楽曲アプローチで自身の個性を発揮出来たのは、中森明菜にとって非常に大きな事ではないだろうか。

 今回の新曲「Rojo -Tierra-」での歌詞は、楽曲とサウンドに驚く程に同期している。情景を浮かばせるフレーズを語る様な譜割りで配置し、彼女の陰のある魅力を反映したかの様な内容の詞。そして最後には明確な希望を呈示している。生命力溢れる歌声、EDMサウンド上で漂う歌姫の新境地には想定外の魅力がある。

 中森明菜は、歌唱力の安定感と、陰のある魅力から醸される不安定感を兼ね備えている貴重な存在だ。そして、その両方を自身の独特な魅力としてはっきりと具現化している。

楽曲に込めた思い

 そもそも同曲にはこのような思いが込められている。

 タイトルの「Rojo」はスペイン語で赤、「Tierra」は大地を意味する。自然界の営み「弱肉強食」の世界で生き抜く「生命」の燃えるような輝き――。

 この楽曲は昨年大みそかのNHK紅白歌合戦で披露された。紅白で同曲を選んだのは中森明菜自身であり、この楽曲に懸ける想いを9日夜放送されたNHK『SONGSスペシャル「中森明菜 歌姫復活」』で以下の通りに語っている。

 「私を支えてくれているファンの人たちを喜ばせたい、という一心な気持ちなので、画面で見てくれている全ての方に少しでも。日々色んなことあるじゃないですか。大変だったり、身体がしんどかったり、仕事がしんどかったり、精神的にしんどかったり、悲しいことがあったり、嬉しいこともあったりするんだけど、日々の出来事がちょっとでも、私のお歌を聞いたり、私の姿を見たりすることで、ほんの少しだけでもいいので支えになれたり、勇気になれたりとか、喜びに代えていただけたらな、ほんのわずかでいいので。手助けと言ったら偉そうですけど、そういうのが良いなと思います」

 妖艶で絶対的な存在である歌姫、その彼女の新たな挑戦ともいえる今回の楽曲。中森明菜であるという確固たる存在、独自の個性はEDMサウンドであっても素敵に映え、中森明菜の新境地に今後も大きな期待感を抱く事ができる。生命力溢れる中森明菜の歌声は、いつの時代であっても希望の光りを照らしてくれる。 

記事提供:MusicVoice
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